2022年3月1日火曜日

空気密度と滞空時間の関係(2)

 少し時間がかかりましたが、滑空記録を整理して空気密度との関係をプロットしてみました。

プロットの重なりが多いのでそれほど多く見えないですが、翼幅360mmの機体で1000回以上のフライト、翼幅460mmの機体で500回以上のフライトデータをプロットしたものです。結構頑張って記録して貯め込んだデータです。最近実施している記録会データも含まれています。

翼幅360mmの機体データで真ん中あたりが抜けているのは、秋頃は殆ど飛ばしていなかったためです。その代わりに翼幅460mmの機体を一生懸命飛ばしていました。

全体を俯瞰してみると、やはり空気密度が高い方が滑空時間は長くなるようです。本当はこのうち一部は機体の性能向上とか発航技術の向上などの影響が入っていると良いのですが。。。

これを調査するためには1年間データ収集を続けないとダメですね。



さて、ココで2つの疑問が出てきました。
(1) 460mm機体と360mm機体の近似式傾きは意味があるものか?
(2) 空気密度が滑空時間に影響を与えるメカニズムは?

このうち、(1)についてはすぐに答えが見つからなそうなので、ちょっと放っておいて、(2)の疑問について考えてみたいと思います。

空気密度ρが飛行特性に影響を与えそうな式を整理します。

揚力L=1/2*ρ*V^2*S*Cl
抗力D=1/2*ρ*V^2*S*Cd
滑空比=L/D=Cl/Cd
レイノルズ数Re=ρ*V*L/μ

ココで、
V:滑空速度
S:代表面積(主翼面積)
L:代表寸法(主翼平均翼弦長)
Cl:揚力係数
Cd:抗力係数
μ:空気の粘性係数

揚力と抗力は空気密度の関数ですが、両方とも同じ次元で影響します。滑空比は揚力係数と抗力係数の比なので、空気密度には影響しないようです。
レイノルズ数は翼まわりの空気の流れの特性を表しますが、空気密度の変化は1年間の最大変化で10%強程度であり、レイノルズ数が10%変わった程度ではそれほど主翼の揚力特性が変わるとは思えません。

そう考えると、空気密度が滑空時間にこれほどの影響を与えるとは思えなくなります。一方で、レイノルズ数には空気の粘性係数が関与しています。粘性係数は温度に依存して変化します。

μ=1.4592e-6*T^(3/2)/(109.10+T)

ココで、
μ:粘性係数[Pa・s]
T:絶対温度[K]

空気の粘性係数をグラフ化して感覚的に掴んでみます。

上に凸な曲線で、液体とは異なり空気は気温が高いほど粘性係数も高くなります。感覚的には不思議な感じもしますが、気体では分子間の衝突で粘性が発生するということで、温度が上がると分子運動が活発になるので粘性も増すようです。


実際に遭遇する環境(紙飛行機を飛ばすときの気温)の範囲を拡大します。
この温度範囲では約13%程度の変化があります。

ココでちょっと整理すると、以下の2点が明らかになりました。
(1) 気温が上がると空気密度は低下する
(2) 気温が上がると粘性係数は増大する

空気密度と粘性係数は気温に対して、逆の特性を見せています。
粘性係数と空気密度の比として動粘性係数という表現があります。

動粘性係数v=μ/ρ

粘性係数と動粘性係数の違いって何でしょうか?
ネットで調べてみると、感覚的な表現として、粘性係数は流体に働く粘性力の強さを表しているため、隣の流体への「力」の伝わりやすさを表しています。一方、動粘性係数は隣の流体への「速度」の伝わりやすさを表しています。つまり動粘性係数が大きい流れは、翼のすぐ表面の流れの速度がチョットだけ離れた層の流れにも伝わりやすいということ。
ということは、気温が高くなると、空気密度が小さくなり、結果として力も速度も拡散しやすい(次の流体層に伝わりやすい)状況の中、紙飛行機は飛ぶことになります。。

動粘性係数をグラフ化して感覚的に掴んでみます。


動粘性係数を使うとレイノルズ数は次のように表されます。

レイノルズ数Re=ρ*V*L/μ=V*L/v

この式によると、気温が上がると動粘性係数が大きくなった結果、レイノルズ数は小さくなります。


ワタクシの360mm機体を想定して、数値を以下のように与えた時のレイノルズ数の変化をグラフで表してみます。
滑空速度V=7[m/s]
平均翼弦長L=0.059[m]


レイノルズ数は気温によって比較的大きく変化するようですね。
感覚的には、気温が低い(空気密度が高い)方が、ゆっくり飛行するように感じるので、レイノルズ数の変化はもう少し緩和されるかもしれませんが。

粘性の高い低レイノルズ数の領域で飛ばなくてはならない紙飛行機にとっては、温度が低い方がレイノルズ数が高くなるので、都合の良い環境になるということですね。

さて、ココまでの考察で分かってきたことを改めて整理します。
以下は、気圧をほぼ一定とした場合です。
(1) 空気密度は気温に強く相関があり、気温が高くなると空気密度は低下する。
(2) 気温が高くなると粘性係数は増大する。
(3) 上記特徴により、気温が高くなると動粘性係数は増大する。
(4) 動粘性係数の特徴により、気温が高くなるとレイノルズ数が小さくなる。
(5) レイノルズ数が示す通り、気温が高くなると紙飛行機にとって飛びにくい環境になる。

如何でしょうか?
幾つか仮定が入っているのでちょっと心配ですが、定性的には紙飛行機の滑空環境の特性を説明できていると思います。。。

さらに突き詰めるのであれば、揚力係数、抗力係数も変化するような気がするのですが、流石に風洞実験装置がないと分からない。。。

とりあえず、このコーナーは以上、ということで。
お付き合いありがとうございました。






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